話しを聞く


しばらくナンパから離れていた。
だから、地蔵とまではいかないけど、声をかけるのが億劫だった。

5回ほど街にでただろうか。
少しずつ声をかける感覚が戻ってきた。

ほんとに街ゆく知らない人に声をかけて、連れ出すことなんでできたんだっけ?
そんな不安というよりは、素朴な疑問が心に浮かびつつ
声かけを続けていた。


大きな買い物袋を肩にさげた子が正面から歩いてきた。
声をかけてみる。
渋谷で買い物して、プラプラしているところだったそうだ。
適当な相槌を打ちながら、うわぁー、ギャルだ、と思っていた。
私は有楽町でナンパすることが多かったから、
あまりこういう子と話すことはない。
それでも会話できたのは、その子の話し方がのんびりしていたからだ。


特に予定もないようなので、居酒屋のキャッチに
連れられて飲みに行った。

「わたし終電早いから、たぶん、2時間くらいしかないよ」

居酒屋へ向かう道で予防線を張ってきた。
予防線なんて男の本気度をはかる小さなハードルにしか過ぎない。
そうだよね、と返事をしておいた。


お酒を飲みながらいたって普通の話をした。
友達、職場、家族。

今日は友達とご飯の約束をしていたのだけど、
仕事の都合で予定があわなくなった。
休みが不定期だからよくあることだ。

最近、職場に年上の女性がはいってきて、
言葉づかいに気を使うが、指示しないといけないから大変だ。

家に帰って10歳下の妹と過ごす時間が幸せ。
歳が離れているのは親が再婚したからだ。


フライドポテトにケチャップをつけながら、
聞き上手だね、と彼女は言った。
私はアドバイスをしない。

それならこうしてみたらいいんじゃない?
だけどさ、相手はこう思ってるかもしれないじゃん?
たぶん、違うんじゃないかな?

余計なお世話である。
たとえ、こうした方が良くなる、もったいないよ、
と思ったとしても決して言わない。

それが話を聞くということだ。


その日は、そのままずっと一緒にいた。