説得のプロ--医療編--

今日も街に出ていない。


日記を見返してみたら2週間も出ていないじゃないか。
それも、この咳がとまらないからだ。
あんまりにも止まらないので、病院に行った。
今回行った病院は初めてだったのだけど、入ってみると
待合で一人も待っている人がいないのだ。
これには驚いた。
私が今まで行ったことのある病院はどんなにボロい外見であろうと、
待合は席が埋まっており、ずいぶんと待たされるイメージがあったからだ。
それに、病院はおじいさんとおばあさんの社交場でもあるし、
たいして具合が悪そうでなくとも、看護婦さんと話すために来てる人も
いるんだろうなぁと思っていたのだ。
だが、もう院内に入ってしまったのだ。
さっそく受付をする。


誰一人待っていないのに、10分ほど待たされてから診察室に呼ばれた。
何か入力作業でもあったのだろうか。


診察室では、咳が止まらず喉が痛いんですと症状を伝えた。
そして、医者の指示に従い検査を受けた。
口の中に木の棒を入れられ、はい、あーーーと声を出してくださいと言われればそうし、
はい、それじゃ呼吸をみますから、服を上にあげてくださいといわれれば、服を上にたくしあげた。
これでやっと検査が終わりか、とほっとして、ありがとうございましたと言おうとした時に、


「あれ・・・?なんか喉の辺りが腫れてません?気になりませんでした?」


と言われたのだ。
ん?確かに言われると腫れている気がする。
だけど、もしかしたら、ちゃんこ鍋の食べ過ぎで、あごの下に贅肉がついただけかも知れない。
しかし、医者は私の喉を下から覗きこんでマジマジと見てくる。
そんなに見られると、風邪が治らないのは何か悪い病気にかかっていたからでは
ないかと不安になる。


「うーーん、なんだか甲状腺のあたり、腫れてますねぇ。
 一応、血液検査もしておきます?血液検査なんて、する機会ほとんどないでしょうから。」


私はおもわず「はい・・」と答えていた。
胸の中にはなんだかよくわからないモヤモヤを抱えたまま。


後からこのモヤモヤの正体を考えてみた。
それは、検査が終わったと安堵している瞬間をついて、
「喉の辺りが腫れてないか」と質問する。当然、喉が痛ければ多少は喉がはれているはずである。
こうして小さなYESを引き出す。
さらには、「甲状腺」という専門用語で不安を煽り、
最後に「一応」とか「する機会ほとんどないでしょうから」と
希少性の原則を使い、私から「血液検査」という大きなYESを引き出したのではないか。


いや、もちろん完全なる善意かもしれないんだけどさ、
病院には客が一人もいなかったから、収入がないのかなと。
だから、一人当たりからもらう金を増やしたかったんじゃないかと疑ったのさ。
だって、たかが喉が痛いだけで血液検査まですると思わないから。


治療費の4000円は、私からYESを巧みに引き出した医者への授業料として払ってやるさ。